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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)2069号 判決 1994年10月28日

原告

須見敏明

被告

富一

主文

一  被告は、原告に対し、金一七九万六五四一円及びこれに対する平成二年一一月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金二〇一万六五四一円及びこれに対する平成二年一一月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  (本件事故の発生)

被告は、平成二年一一月二四日午後五時四五分頃、神戸市垂水区下畑町第二神明道路下り四・四キロポスト先路上において、普通貨物自動車を運転していたところ、渋滞のため停車中の原告運転にかかる普通乗用自動車に追突した。

2  (原告の受傷と治療経過)

原告は、本件事故によつて頸部捻挫及び腰部打撲の傷害を負い、次のとおり神戸徳洲会病院に入通院して治療を受けた。

平成二年一一月二六日通院

同月二八日から同年一二月八日までの間入院(一一日間)

同月九日から平成三年一月三一日までの間通院(実治療日数二〇日)

3  (被告の責任)

被告は、被告車の運転につき、前方不注視の過失によつて本件事故を惹起したのであるから、民法七〇九条に基づき、原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

4  (損害の填補)

原告が本件事故によつて被つた損害のうち、治療費金四〇万二三五〇円については、被告側から填補を受けた。

二  争点

本件の争点は、原告の損害額の算定であるが、特に、被告は、原告が本件受傷のためにタバコ小売販売業(自動販売機の管理)に従事できなかつたことによる損害の発生を争つている。

第三当裁判所の判断

一  損害の算定

1  治療費(争いがない) 金四〇万二三五〇円

2  通院交通費(争いがない) 金七九二〇円

3  入院雑費 金一万三二〇〇円

原告が本件受傷のために一一日間入院したことは前記のとおりであるところ、前記傷害の部位及び程度等からすると、その間の入院雑費は、一日当たり金一二〇〇円の割合が相当であるから、これを合計すると金一万三二〇〇円となる。

4  休業損害(主張額金一三九万五四二一円) 金一二五万五四二一円

(一) (原告の要休業)

前記争いのない事実と証拠(甲二、三号証、原告の供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告(昭和一三年七月八日生)は、本件事故によつて頸部捻挫及び腰部打撲の傷害を受け、下半身の痺れ等も生じたため、就労できない状態になつたこと、そのため、原告は、平成二年一一月二六日の通院開始から平成三年一月三一日までの合計六七日間にわたつて入通院の上、湿布や運動療法による治療を受けたことが認められる。

そして、右認定事実と後記(二)で認定する原告の職種及び仕事内容を総合して考えると、原告は、右六七日間にわたつて休業を要する状態にあつたと認めるのが相当である。

(二) (原告の収入額)

証拠(甲四号証、原告の供述)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故当時(満五二歳)、個人タクシー運転手として稼働するとともに、「須見商店」との屋号にて妻洋子の名義でタバコ小売販売業の許可を得た上、同女が店頭販売を、また、原告が神戸市内の会社、事業所や商店街等に自費で購入、設置したタバコ自動販売機(当時約三〇台)を管理してタバコ販売に当たつていたこと、原告の個人タクシー業による売上げは毎月金五、六〇万円程度であり、ガソリン代や車庫代等として月額金一五万円程度の経費を要していたから、収入としては月額金約四〇万円程度であつたこと、また、原告のタバコ小売販売業については、毎月金四、五〇万円程度の売上げがあつたものの、設備投資となる自動販売機購入に関する割賦返済金がかなりの額に及んだため、右当時タバコ小売販売業から利益が上がるというまでには至らなかつたことが認められる。

右認定事実に基づいて考えると、原告は、同年齢の男子労働者の平均給与と同程度の収入を上げ得るものと認められるところ、いわゆる年齢別平均給与額によると、満五二歳の男子労働者の平均給与月額は金四〇万九九〇〇円(一日当たり金一万三六六三円。円未満切捨て。)とされているから、原告の休業損害額算定の基礎収入額はこれによるのが相当である。

(三) (休業による損害)

以上に基づき、原告の休業による損害額を算定すると、次の算式のとおり、金九一万五四二一円となる。

一万三六六三(円)×六七=九一万五四二一(円)

(四) (タバコ小売販売業に関する損害)

証拠(甲五ないし七号証、原告の供述)及び弁論の全趣旨によると、原告は、前記自動販売機によるタバコ販売につき、ほぼ毎日のように早朝から夜までの間、タクシー運転の合間を縫つて、随時、自動販売機設置場所を回つてタバコ及び釣銭の補充や機械の故障に対する対応等の維持管理を行つていたこと、そして、そうした日常的な自動販売機の維持管理の継続の有無が設置承諾者側との間においては重要な信用問題となること、原告は、本件事故による前記休業期間中、自らは自動販売機の維持管理業務に従事することができなくなり、家族による代替もできなかつた結果、やむなく息子の友人である古田敦也及び同藤田繁幸らに対し、一日当たり車代金四〇〇〇円及び日当金八〇〇〇円の合計金一万二〇〇〇円の割合とする約定で右維持管理業務のうちタバコの運搬・補充の仕事を委託したこと、そして、原告は、右委託費用として、古田に対し平成二年一一月末から平成三年一月末までの間の二〇日分として合計金二四万円を、また、藤田に対し平成二年一二月から平成三年一月末までの間の二〇日分として合計金二四万円を各支払つたこと、もつとも、古田及び藤田らは、自分の都合の良い時間を中心に右受託にかかる業務を行つたが、それでも待機時間の無駄等があつたこと、なお、被告の勤務先である三和組運送の社長は、原告がその代わりとして第三者に対し右業務を委託した上、一日につき車一台及び一人分の日当を支出するということについて格別の異議を述べなかつたことが認められる。

右認定事実に基づいて考えると、原告が本件事故のために自らタバコ自動販売機の維持管理業務を行えなかつたことによつて第三者に対し支出を要した委託費用については、前記委託業務の内容及び種類と前記古田及び藤田らの実働状況、さらに一般的なアルバイト料金の価格等に照らせば、前記休業期間中の延べ四〇日間について、一日当たり、車代として金四〇〇〇円及び日当分として金四五〇〇円の合計金八五〇〇円の割合をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

以上に基づいて計算すると、右委託費用は合計金三四万円となり、したがつて、この点に関する原告の請求は右の限度で理由がある。

5  慰謝料(主張額金四〇万円) 金三五万円

本件事故による傷害慰謝料としては、前記傷害の部位及び程度、入通院期間、治療経過その他一切の諸事情を総合考慮すると、金三五万円が相当である。

6  損益相殺

以上の損害額を合計すると、金二〇二万八八九一円となるところ、原告が治療費金四〇万二三五〇円について既に填補を受けたことは前記のとおりであるから、これを控除すると、右損害額は金一六二万六五四一円となる。

7  弁護士費用(主張額金二〇万円) 金一七万円

本件事案の内容、訴訟の審理経過及び右認容額等を総合考慮すると、本件事故と相当因果関係があると認めるべき弁護士費用の額は、金一七万円が相当である。

二  以上によると、原告の本訴請求は、金一七九万六五四一円及びこれに対する平成二年一一月二四日(本件事故発生日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 安浪亮介)

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